アカサギ(結婚詐欺師)という人種は、どうにも惹きつけられる魅力があるようだ。
小説『BUTTER』では、結婚詐欺をしかけた末に3人の男を殺害したとされる、梶井が登場します。
彼女は、取材にきた記者までも自分の虜にしてしまう魔女のような女。
私は、本を読みながら、梶井の本心がわからず、翻弄されまくりました……
あなたもこの小説を読んで、主人公の記者である里佳と共に梶井に翻弄されてみませんか?
この記事では、未読の方に『BUTTER』のあらすじや主な登場人物といった基本情報、どんな人におすすめなのかを、読了後の方には、物語の振り返りと『BUTTER』の次に読む本のおすすめを紹介します!
- 『BUTTER』のあらすじ・主な登場人物
- 『BUTTER』がおすすめの人
- ネタバレありのレビュー
- 『BUTTER』の次に読む小説
『BUTTER』基本情報とあらすじ
書名:BUTTER
著者:柚木 麻子
出版社:新潮社
出版年月:2017年4月(単行本)
小説形態:長編
ジャンル(またはテーマ):実際の事件が題材、社会派
ISBN:9784101202433
その他:
- The British Book Awards 2025 (Debut Fiction部門)受賞(英国の文学賞で日本人作家として初受賞)
- Waterstones Book of the Year 2024(英大手書店チェーンの「今年の1冊」)
- 英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳小説部門【最終候補作】
3人の男を殺害したとされる容疑者・梶井真奈子。
けっして「若くも美しくもない」彼女はなぜ男たちから求められたのか。
週刊誌記者の町田里佳は、独占取材を取り付けるため、梶井の元に通い詰める。
しかし、獄中の梶井が語る甘美な言葉と芳醇な料理の話の数々は、次第に里佳の心身を侵食し、彼女の価値観を根底から揺さぶり始める――
『BUTTER』の主な登場人物
町田里佳
記者。結婚詐欺の末に殺人容疑がかかっている「梶井真奈子」の独占取材を取ろうと、接触を試みる。
伶子
里佳の親友。かつては、大手映画会社の広報としてバリバリ働いていた。現在は退職し、妊活中。
亮介
伶子の夫。菓子メーカー営業部に勤める。
梶井真奈子(かじいまなこ):通称「カジマナ」。結婚詐欺の末に男性3人を殺害した容疑で勾留されている被告。美食家であり、自分を卑下しない堂々とした振る舞いと、バターを贅沢に使った料理の話題で里佳を惹きつける。
篠井芳典
大手通信社の編集委員。里佳にネタをくれる存在。
『BUTTER』はこんなあなたにおすすめ

『BUTTER』は、以下の3つの項目に当てはまる方に特におすすめです!
- 微細な描写が好き
- 実際の出来事を扱った物語が好き
- ミステリアスな人物が登場する物語が好き
もう少し詳しくお話しますね。
微細な描写が好き
『BUTTER』は、描写が非常に細かいです。まるで翻訳小説のような描写は、対象の美しさやリアルさを読む者に伝えてきます。
最初はストーリーがなかなか進んでいかないので、スピード感がほしい方には退屈かもしれません。しかし、後半からは物語が展開していくスピードが上がり、どんどんと読み進められるはずです。
とにかく描写が丁寧で、登場する料理もとても美味しそうです。
思わず、バターを料理に使いたくなるほどです。
細かな描写が好きな方や翻訳小説が好きという方には、ぴったりな作品でしょう。
実際の出来事を扱った物語が好き
この作品は、実際にあった事件を下敷きにしています。
もちろんフィクションではあるのですが、「こんな風だったのかもしれない」という想像をかきたてられます。
史実に基づいた作品が好きな方には、ぜひおすすめしたいです。
他にも、史実に基づいたおすすめ小説にはこんな作品があります。
・ネパールの王宮事件を題材にした、ミステリ小説『王とサーカス』
・悪役として知られる松永久秀の半生を題材にした、歴史小説『じんかん』
ミステリアスな人物が登場する物語が好き
この『BUTTER』では、魔女のような、最高にミステリアスな存在「梶井真奈子」が登場します。
人の心を操るような言動で、相手を翻弄し、危険なところへ誘い出します。
彼女は本当に殺人を犯したのか、それともただ男たちに料理を差し出していただけなのか。
読み進めるごとに梶井の本来の姿を見失うような、ミステリアスな体験を味わえます。
『BUTTER』ネタバレありの感想・レビュー

ここからは盛大にネタバレしますので、作品を読み終えた方のみ読んでくださいませ!
梶井の人物像
梶井は、記者である里佳が自分に近づいてきたのをいいことに、彼女を翻弄します。
梶井がなにをしたかったのか、真意はなんだったのかがはっきり語られることはありませんが、孤独を感じていて友だちを見つけたかったのは本当かもしれません。
幼少期を知る知人の話では、梶井は幼いころから友だちをつくるのが得意ではなかったことが読み取れます。
友だちのつくり方がわからず、接し方がわからないから、里佳に対しても上から目線の物言いをしたり、自分の思うように相手をコントロールしようとしたりして、友だちという「対等」の関係が築けないでいるのです。
子どものころは、もしかしたら彼女も純粋に友だちの関係を求めていたのかもしれません。
それが上手くできずに、人との距離感を詰められず不器用に接しているうちに、相手をコントロールするような接し方しかできなくなった可能性もある。
それが「梶井」のミステリアスで悪女的な人物像をつくりあげていったような気もします。
とはいえ、梶井が里佳に対しても「友だちの関係」を求めていたかは不明です。
留置場という面白みのない世界に閉じ込められている間の、「暇つぶし」として彼女を弄んでいたと言われればそんなような気もしてしまう。そんな掴みどころのない、けれど人間味はある人物でした。
梶井はなにがしたかったのか
里佳が梶井に「七面鳥を焼いたら、ぜひ来てほしい」と言ったシーンが強く印象に残っています。
私は、そのときの梶井は、里佳の言葉に心を動かされているように感じました。あのとき、一瞬でも梶井は、誘ってくれた里佳の元に行きたいと思ったのではないでしょうか。
でも、これまでうまく友だち関係をつくれなかった経験から、「友だちとの関係」を信用できなかった。もしくは自分も信じられなかったんだと思います。
そうして不安になって、里佳を裏切り、従順にしたがってくれる男性記者を自分の側に引き入れてしまった。これまでと同じことを繰り返してしまうんです。
おそらく里佳と接触している途中から男性記者とも接触をはじめていたのでしょうが、梶井にとっては相手をコントロールする方がラクなんですよね。
自分のコンフォートゾーンから出なくていいから。
もし里佳と友だちになろうと思えば、心地がいいコンフォートゾーンから一歩踏み出さなくてはならない。
人は誰でも、新しいことに挑戦するときにエネルギーが要ります。負荷がかかる。
その不安に、梶井は負けてしまったんじゃないでしょうか。
『BUTTER』の次に読むおすすめ小説

ここでは、『BUTTER』が「おもしろかった」と感じたあなたに、元司書の管理人が次に読む本のおすすめを紹介します!
雰囲気やテーマに共通点が見いだせた作品を紹介していますので、ぜひ参考にしてくださいね。
新たな本との出会いのきっかけになれば、嬉しいです。
「悪女が人を陥れる」おすすめ小説『嗤う淑女』
書名:嗤う淑女
著者:中山 七里
出版社:実業之日本社
出版年月:2015年1月(単行本)
小説形態:連作短編
ジャンル(またはテーマ):悪女、ミステリー
その他:シリーズ物
ISBN:9784408536637(単行本)
稀代の悪女・蒲生美智留(がもう みちる)が、人々の心の隙間に潜む「欲望」を暴き、破滅へと導く連作ミステリー。美智留は自らの手は決して汚さない。相談に訪れる者たちの名誉欲や金銭欲、復讐心を巧みな話術で煽り、いつの間にか犯罪へと駆り立てる。
彼女は救いの女神か、それとも最恐の悪女か――
【おすすめポイント】
こちらも悪女っぷりは、梶井に引けを取りません。人の操り方が巧みすぎて怖いくらいです。梶井の方がまだ人間味があります。
『嗤う淑女』に登場する蒲生美智留(がもう みちる)は、本当に悪事を楽しんでやっている感じがするのが、たちが悪いです。
でも、癖になるのでぜひ彼女の悪女っぷりを体感してみてください!
※嗤う淑女シリーズは、現時点(2026年1月)では3冊刊行されています。
読む順番は、以下のとおりです。
- 嗤う淑女
- ふたたび嗤う淑女
- 嗤う淑女 二人
「記者が殺人犯と対峙する」おすすめ小説『汽水域』
書名:汽水域
著者:岩井圭也
出版社:双葉社
出版年月:2025年2月
小説形態:長編
ジャンル(またはテーマ):ミステリー
その他:
ISBN:9784575247985(単行本)
フリーの事件記者である安田は、妻子に愛情がなく、仕事一筋の日々を送っていた。
そのせいで妻とは離婚、息子とは月に1度の面会日に会うだけで、それすらも退屈な時間となっていた。
ある日、懇意にしている雑誌編集者からある事件の取材を依頼される。安田がいる場所の近くで発生した、無差別殺傷事件だった。
あっさり捕まった犯人は「死刑になりたい」と述べているという。
この犯人に、なぜか惹かれるものを感じる安田は、金になるともわからない取材にのめり込んでいく――
【おすすめポイント】
こちらは、『BUTTER』に物語の構造が近い小説。事件記者の安田が、無差別殺傷事件の犯人に迫るストーリーです。記者の安田は犯人を自分自身を重ね合わせて、里佳と同様に影響を受け、悩みます。
共通点はありますが、受ける印象はまったく違う。
一歩間違っていれば、自分も犯人のようになっていたかもしれない……そんな怖さがある作品です。
他の岩井圭也さんの作品については、こちらの記事でも解説しています。
『BUTTER』まとめ
- 『BUTTER』は、実在の事件をモデルにした社会派小説
- 五感を刺激する濃厚な料理描写と、魔女のような梶井に翻弄される心理戦が魅力
- 「自分らしく生きること」や既存の価値観について、読後も深く考えさせられる
- 本作が気に入ったなら、悪女の深淵を描く『嗤う淑女』や、記者と犯人が対峙する『汽水域』もおすすめ




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