早見和真さんの小説『アルプス席の母』は、甲子園を目指す母子の物語です。しかし、単なる青春小説ではありません。
グラウンドで頑張る息子を支える裏側で、母は理不尽なルールや複雑な人間関係に戸惑い、思い悩みます。『アルプス席の母』は、そんな母に焦点をあてた物語なのです。
この記事では、『アルプス席の母』のあらすじや登場人物から、ネタバレありのレビュー、そして次に読むおすすめの小説まで、ご紹介します。
新たな読書体験の入口が開けますよ。
- 『アルプス席の母』のあらすじ・主な登場人物
- ネタバレありのレビュー
- 『アルプス席の母』の次に読む小説
『アルプス席の母』基本情報とあらすじ
書名:アルプス席の母
著者:早見和真
出版社:小学館
出版年月:2024年3月
小説形態:長編
ジャンル(またはテーマ):高校野球、球児の親、人間ドラマ
その他:2025年本屋大賞「第2位」
ISBN:9784093867139
神奈川で看護師として働くシングルマザーの秋山菜々子。一人息子の航太郎は、シニアリーグで活躍するピッチャーで、複数の強豪校からスカウトされる中、大阪の新興校への進学を決意する。
息子の夢を支えるため、菜々子も慣れない大阪での生活を始めるが、そこでは野球部の父母会でのしがらみや、野球部の監督との関係など、様々な困難が待ち受けていた。これは、甲子園という夢の舞台を目指す息子と、アルプス席からその姿を見守り、共に成長していく母の、愛と絆の物語。
『アルプス席の母』の主な登場人物
秋山菜々子:本作の主人公。看護師として働きながら、一人息子の航太郎を育てるシングルマザー。
秋山航太郎:菜々子の一人息子。中学時代はシニアリーグでピッチャーとして活躍し、高校野球の強豪校からスカウトされる。大阪の新興校・希望学園に入学。
馬宮香澄:菜々子の心の支えとなる友人。航太郎と同じ野球部に所属する陽人の母。
馬宮陽人:野球部唯一の一般入学生で、航太郎の親友。
佐伯監督:航太郎が所属する希望学園野球部の監督。
『アルプス席の母』ネタバレありの感想・レビュー

スポーツをする人に焦点をあてた作品は数あれど、その親に焦点をあてた作品はあまりなく、その点でまず新鮮さを感じました。
ここでは、次の3つの観点から、ネタバレありの感想を書きました。
- はびこる理不尽
- 絶対的な存在である「監督」
- 航太郎は4年後プロになれたのか
はびこる理不尽
理不尽というのは、どんなところにもあるものですが、球児の親たちの世界も例外ではありません。
特に、「バスに途中から乗るのがダメだからわざわざ駅近くの停留所まで戻って乗らなくてならない」といったルールは、無駄としか言いようのないものです。でも、こういった合理性のないことを、平気で他人にやらせようとする人がいるんですよね……。
本当に意味のわからないルールなんですが、こういうことって大なり小なり至るところに存在します。本当に生きづらい世の中です。
自分だけのことであれば、まだ歯向かうこともできたかもしれません。でも、菜々子の場合は、息子を人質にとられているようなもの。
子どもや家族に影響が及ぶかもしれない状況でつきつけられる理不尽ほど、厄介なものはありません。
絶対的な存在である「監督」
甲子園を目指す球児たちにとって、監督は絶対的な存在です。試合に出場するメンバー、ベンチメンバーを決めるのが監督であるため、それは当然かもしれません。
しかし、選手たちだけでなく、その親にとっても監督は絶対的な存在になっているのです。
親はもちろん自分の子どもがメンバーに入ることを望むものでしょうし、そう考えると監督に逆らえないという構図ができあがるのも、当然の帰結のような気がします。
だからといって、監督が親たちから多額のお金を受け取るのが良いことであるはずはありません。
しかも、監督の佐伯はあたかも「仕方なく受け取っているんだ」という態度を崩そうとしないところも腹が立ちます。
でも、この佐伯。最後に突然改心するんですよね。
周囲の人や別の学校の監督に話を聞きに行ったぐらいで、こんなに変われるなら「最初から聞きに行ってくれ」という感じです。
航太郎は4年後プロになれたのか
作品では、航太郎が東北の大学に行ったところで終わっています。プロになれたかどうかの具体的な言及はありません。
でも、私は「航太郎がプロになったのではないか」と思っています。いや、プロになっていてほしいという願望です。菜々子と航太郎の二人三脚の物語を読み、知らず知らずのうちに彼らを応援している自分がいました。
誰かの人生を自分の人生のように生きたり、誰かを応援したり。それが、小説の醍醐味だと私は思います。この作品は「彼らを応援したいと思う」、そんな読書体験をもたらしてくれました。
【司書が選ぶ】『アルプス席の母』の次に読むおすすめ小説

ここでは、『アルプス席の母』がおもしろかった!と感じたあなたに、次に読む小説のおすすめを紹介します。
今回は、野球にまつわる小説を2作品選びました!
- 高校球児の補欠部員に焦点をあてた『ひゃくはち』
- 一度は野球で挫折した大人たちの青春を描いた『たんぽぽ球場の決戦』
『アルプス席の母』と同じ著者の小説と、別著者の小説です。
どちらも、別の視点で楽しめる野球青春小説です。ぜひ、次に読む小説の参考にしてくださいね。
高校球児の補欠部員に焦点をあてた『ひゃくはち』
書名:ひゃくはち
著者:早見和真
出版社:集英社
出版年月:2008年6月
小説形態:長編
ジャンル(またはテーマ):青春、野球
その他:早見和真さんのデビュー作、2008年映画化
ISBN:9784087467147
甲子園の常連である強豪・京浜高校野球部。主人公の青野雅人と親友のノブは、厳しい練習に明け暮れる、補欠部員。レギュラーには届かないものの、お互いを励まし合いながら野球に打ち込んでいた。
2人は高校最後の夏を前に、ベンチ入りメンバーに入ることを狙う。野球への情熱、仲間との友情、そして異性への興味といった「煩悩」の間で揺れ動く、高校球児の葛藤と青春を描いた物語。
【おすすめポイント】
野球と遊びに全力をそそぐ高校球児の青春を描いた小説です。こちらは、強豪校の補欠部員に焦点をあてており、『アルプス席の母』とはまた違った視点の、高校野球小説となっています。野球部の指導法や選手たちの言動などは、一昔前の印象があるため、少し年齢を重ねた大人の方はおおいに共感でき、青春を思い出せる作品でしょう。
野球で挫折した大人たちの青春を描いた『たんぽぽ球場の決戦』
書名:たんぽぽ球場の決戦
著者:越谷オサム
出版社:幻冬舎
出版年月:2022年6月
小説形態:長編
ジャンル(またはテーマ):大人の青春、野球、挫折からの再生
ISBN:9784344039704
人生の敗者復活戦、プレイボール!
あの日のエラー、届かなかった夢……
「もう一度」なんて、あるはずないと思っていた。
野球に挫折した、ワケあり男女の寄せ集めチーム。
たかが草野球、されど草野球。
明日への一歩を踏み出す元気がもらえる、爽快エンタメ小説。
【おすすめポイント】
『アルプス席の母』は、高校球児の母である菜々子の青春でもありました。こちらは、正真正銘、大人の野球青春小説です。挫折をしたことがあるすべての人に、おすすめです!
きっと「明日からまた頑張ろう」という気持ちにさせてくれます。
『アルプス席の母』まとめ
- 『アルプス席の母』は、甲子園を目指す息子を支える「母親」の視点で描く青春小説
- 主人公母子の奮闘を読み進めるうちに、彼らを応援したくなる
- 選手視点の青春野球小説を読みたいなら、同著者の『ひゃくはち』がおすすめ
- 大人の青春を読みたいなら『たんぽぽ球場の決戦』もおすすめ



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