この記事では、貴志祐介さんの小説『兎は薄氷に駆ける』についての感想・考察を書いています。
『兎は薄氷に駆ける』ネタバレありの考察
盛大にネタバレしているため、未読の方は読まないでくださいね(ネタバレ全然いいよって方は、読んでください!笑)。
この作品の魅力をテーマと視点で考察してみました。
作品のテーマは「人間の狂気」
この小説の帯にはこう書かれている。現代日本のリアルホラー。
ところが作品を読み進めていくと、法廷ミステリ色が強く、ホラーはあまり感じられない。
では、どこがホラーなのか。
それはラストで明かされる。
最後の記者会見の場面。
日高英之は裁判で起訴取り消しを勝ち取り、せっかく拘留を解かれたというのに、再起訴をするよう検察を挑発する。
そこには、有罪のリスクをおかしてまで、父の無念を晴らしたいと思う彼の狂気が見えるのだ。
この狂気こそが、作品をホラーたらしめていると言えるだろう。
英之だけではない。英之の彼女(千春)と本郷弁護士ですら、英之が行ったことを知りながら彼に協力しようとしている様子に、背筋がゾッとする。
視点者が肝
彼ら3人の狂気を描くのに、不可欠な存在が視点者である垂水謙介の存在だ。
会社をリストラされた彼は、退職時に本郷弁護士にお世話になった縁でアルバイトを引き受け、この事件に関わっていくこととなる。
謙介はこの事件に関わる完全な第三者で、客観的な視点で事件を見ている。
千春や本郷弁護士の所作や言葉に不自然さを感じ、再三、疑っているのだ。
読者は、謙介と共に彼らを疑い、読み進めていくことになる。
裁判(ストーリー)が進行することに並行して「なにかがおかしい」という謎があることで、どんどん読み進めさせられていくのだ。
謙介は、ラストの3人の狂気を表現することにも大きく貢献している。
ここに謙介という第三者がいなければ、彼らの狂気は伝わりにくい。
視点者が謙介だからこそ、この狂気は成り立つのだ。
『兎は薄氷に駆ける』は、今後続編が出るのか?
個人的には「ない」と考えている。
確かに、「えぇっ、ここで終わる?!」というところで終わるのだが、この後裁判がどうなるのかはこの小説の根幹というかテーマではない気がするからだ。
この作品は「狂気」の物語なのである。
父の冤罪を晴らすため、日高英之が自らを改めて起訴させようとする。
それに共感した本郷弁護士と、英之の彼女の千春。
彼らの「狂気」が描かれているのだ。
だから、裁判の行く末がどうなるのかはあまり重要ではなく、彼らの「狂気」を読者が感じた時点でこの作品は完結しているのである。



コメント