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2025年本屋大賞7位『恋とか愛とかやさしさ なら』考察|タイトルの意味【ネタバレあり】

小説

2025年の本屋大賞で第7位となったこの作品は、性加害者とその恋人の2人の視点で語られる物語です。

犯罪を犯してしまった彼とこのまま付き合い続けていいのか葛藤する女性と、事件を起こした男性の心模様が丁寧に描かれています。

この記事を読んでわかること
  • 『恋とか愛とかやさしさ なら』のあらすじ
  • ネタバレありのレビュー
  • 『恋とか愛とかやさしさ なら』の次に読む小説

『恋とか愛とかやさしさ なら』の基本的な情報やあらすじ、登場人物の部分まではネタバレしていませんので、未読の方もぜひお読みくださいませ。

『恋とか愛とかやさしさ なら』基本情報とあらすじ


書名:恋とか愛とかやさしさ なら
著者:一穂 ミチ
出版社:小学館
出版年月:2024年11月
本の形態:単行本(2025.6.26現在)
ジャンル(またはテーマ):人間ドラマ
その他:2025年本屋大賞 第7位
ISBN:9784093867399

プロポーズの翌日、恋人が「犯罪者」になった。

幸せの絶頂から突き落とされた私。
あなたの罪を、私は許せるだろうか。
それでも、あなたを愛し続けることはできるだろうか。

“普通”の日常が崩れ去る瞬間、なにを選ぶのか。
究極の問いを突きつける傑作!

『恋とか愛とかやさしさ なら』ネタバレありの感想・レビュー

ここからは、盛大にネタバレしていますので、未読の方はご注意ください!

それぞれの視点で語られる2つのストーリーの考察と、タイトルについて考えています。

恋人、新夏の視点

1話目の「恋とか愛とかやさしさなら」は、電車で盗撮をしてしまった彼と別れるべきか、それとも関係を続けるべきか迷うカメラマンの新夏(にいか)の視点で描かれている。

彼女は、事件後もずっと彼が好きだった。

理解したいと思い、葛藤し続けた。一時はやり直そうと思い、結婚の準備をはじめようともした。

でも、結局は別れを選んだ。

選ばざるを得なかった。

「あんな顔させてごめん」
彼の言葉に、新夏は未来を見てしまったから。

信じていなかったわけじゃない。むしろ「信じたい」と強く願っていた。

あのとき、シャッター音に思わず振り返ってしまったのは、不安だったからではないだろうか。

不安で確認せずにはいられなかった。

新夏の顔を見た彼は、新夏に信用されていないと思ったかもしれない。

このときのことを彼は一生忘れられないし、また疑われる可能性を考えてしまうはず。

新夏はそう思ったのだろう。

彼はきっと私と居続けることはできない。

だから、彼女から別れを告げた。まだ好きなのに。

好きだからこそ、かもしれない。
好きだから、彼に自分のことを「生理的に無理」になってほしくなかった。

そんな風になることは、耐えられない。

今なら、まだ彼のなかでの新夏は大事な存在のままだ。

でも、本当に新夏が思うような未来が来ることはあったのだろうか。

私は2つ目の話を読んで、彼が新夏の「あんな顔」を背負って生きていける強さを持っているように感じた。

それは事件から時間が少し経って、互助会の人や被害者の女の子と接するうちに、自分を見つめなおせたことが影響している気がする。

それであれば、今からならもう一度やり直せるんじゃないか、なんて思ってしまった。

加害者、啓久の視点

2つ目の「恋とか愛とかやさしさより」は、性加害者となってしまった啓久(ひらく)の視点。

加害者同士が集まる互助会でも、彼は自分のしたことや意見を話せない。会のリーダーである瀬名からは、「瀬名たちを見下して、自分は違うと確認しに来ているだけだ」と言われる。

啓久は、周囲から責められ、自分でも自分を責め、加害者グループでも居場所がない。

それでも自分がしたことだから仕方がない。そう思って日々をどうにかやり過ごしている。

確かに罪の軽重はある。かといって、「盗撮ぐらいはいい」なんて話ではないのだ。被害者にとってそれは忘れられることではないし、一生の心の傷になることもある。

でも、盗撮犯になら何をしてもいいわけでもない。

啓久はやってしまったことと向き合い、罪を背負って生きている。瀬名もそうだ。彼も必死で衝動を抑えながら、どうにか生きてきた。

そんな彼らに対して、軽々しくその話を持ちだしたり冷やかしたりするのは、違うのではないか。結局、瀬名は職場で前科がバレて、新たな犯罪に走ってしまった。

もちろんストレスが重なったからといって犯罪を犯してはいけない。犯罪を犯したのは、自己責任だ。ストレスが重なったせいだなんて言い訳は通用しない。

しかし、そこに職場での出来事がまったく関係なかったとは言い切れないのである。

瀬名は職場で前科がバレて自暴自棄になってしまったのかもしれないし、何か言われたことがショックで今まで表面張力のようにぎりぎりのところで保っていた自制心が、壊れてしまったのかもしれない。

その辺りは詳しく書かれていないが、そんな風に読める。

何の気なしに、または悪意を持った心ない言葉が、新たな犯罪を助長するかもしれないことは肝に銘じておくべきだろう。

タイトルの意味


2話目の「恋とか愛とかやさしさより」のあとに続く言葉は、「尊重」なのだと思った。

啓久の被害者である莉子は、他者から尊重されてこなかった人生だった。

だから、啓久にも「下着を盗撮されたぐらい気にしていない」と言い放っていた。

他者から尊重されてこなかった莉子は、自分すら自分自身を尊重できていなかったのだろう。

それに気づいた啓久は、莉子にどうなってほしいか尋ねられ、自分のことを軽蔑して拒絶してほしいと伝える。

きっと、それは莉子が自分自身を尊重することになるから。

そこで、表題にもなっている「恋とか愛とかやさしさなら」である。

「なら」の後に続くのはなんなのか。

まず思いつくのが「恋とか愛とかやさしさならよかったのに」。

しかし、恋も愛もやさしさも2人の間にはあっただろうし、しっくりこない。

「恋とか愛とかやさしさなら」

この言葉には、なんとなく新夏の「後悔」のような感情を感じる。

別れたこと自体を後悔しているわけではない。そうではなく、心残りというか。

「恋とか愛とかやさしさなら持っていたのに」とか。

「なら」の前にスペースが入っているのも意味ありげで、一呼吸置いているように感じる。

いろいろ考えてはみたが、「これだ!」というものは、結局見つからなかった。

あなたは、どう考えるだろうか。

元々のタイトルだった「Put your camera down」にヒントがあるような気もしている。

この元タイトルは、おそらく1話目ラストの新夏の「ブラックボックス」を表したものだ。

写すことは移すこと。この瞬間の啓久を焼きつけたら、きっと胸の中からいなくなってしまう。耐えられない。わたしの外で完璧に残り続けるより、わたしの中で薄れて褪せて、でも消えないでいて。これが私の愛、わたしのブラックボックス。(本文より)

撮影してしまったら、自分のなかに残らない。

だから、カメラを置いた。

自分のなかに啓久を残しておきたい。その一心で。

それこそが彼女の愛だから。

『恋とか愛とかやさしさ なら』が好きなあなたへ【次に読む本のおすすめ】

小説のイメージ画像

ここでは、『恋とか愛とかやさしさ なら』がおもしろかった!と感じたあなたに、次に読む小説のおすすめを独断と偏見で紹介します。

同じ著者の小説と、別の著者の小説に分けています。

感じる雰囲気やテーマに共通点が見いだせた作品を紹介していますので、ぜひ参考にしてくださいね。新たな本との出会いのきっかけになれば、嬉しいです。

【同著者】次に読む作品のおすすめ『光のとこにいてね』

書名:光のとこにいてね
著者:一穂ミチ
出版社:文藝春秋
出版年月:2022年11月
本の形態:単行本(2025.6.26現在)
ジャンル(またはテーマ):人間ドラマ
その他:第168回直木賞 候補作、2023年本屋大賞 第3位
ISBN:9784163916187

裕福な家庭で育つ結珠(ゆず)と、古い団地で暮らす果遠(かのん)。
小学2年生の夏、偶然出会った二人は、何もかもが違う世界に住みながらも、どうしようもなく惹かれ合う。しかし、ある日を境に、二人は離れ離れになってしまう。高校での劇的な再会、そしてまた訪れる別れ。

人生の節目で出会いと別れを繰り返す二人の四半世紀を描く物語。互いを人生の光としながら、残酷な現実と運命に翻弄される彼女たちの、切なくも美しい魂の結びつきに、胸が締め付けられる。

おすすめポイント

テーマが共通しているわけではないけれど、こちらの作品も濃厚な人間ドラマという点でおすすめです。二人の女の子の出会いから、高校での再会、別れ。そして、彼女たちのそれから。

恋愛と言ってしまうと陳腐になるような、そんな名前のつけられない関係が濃密に綴られています。人間ドラマが克明に描かれた小説が好きな方に、とてもおすすめしたいです!

【別著者】次に読む作品のおすすめ『流浪の月』


書名:流浪の月
著者:凪良ゆう
出版社:東京創元社
出版年月:2019年8月
本の形態:単行本・文庫
ジャンル(またはテーマ):人間ドラマ
その他:2020年本屋大賞 受賞作
ISBN:9784488803018

世間が彼を「誘拐犯」と呼んでも、
私にとっては、世界でたった一人の理解者だった。

15年前の「誘拐事件」。
加害者と被害者として引き裂かれた二人が、再び出会うとき――

あなたの“普通”を揺さぶる、切なく、そして息をのむほど美しい物語。
この関係を、あなたはなんと名付けますか?

世間が彼を「誘拐犯」と呼んでも、
私にとっては、世界でたった一人の理解者だった。

15年前の「誘拐事件」。
加害者と被害者として引き裂かれた二人が、再び出会うとき――

あなたの“普通”を揺さぶる、切なく、そして息をのむほど美しい物語。
この関係を、あなたはなんと名付けますか?

おすすめポイント

共通点は、犯罪。しかし、登場人物がしたことは『恋とか愛とかやさしさ なら』とは正反対といえるでしょう。

当人たちはそう思っていなくても、世間から見れば犯罪になる
非常に難しいテーマを扱っています。

こちらも、『光のとこにいてね』と同様に、名前のつけられない関係を描いた作品です。

『恋とか愛とかやさしさ なら』まとめ

この記事のポイント
  • 『恋とか愛とかやさしさ なら』は、2025年本屋大賞 第7位
  • 加害者とその彼女の視点で見た事件前後の物語
  • 次に読む本のおすすめは、同著者なら『光のとこにいてね』、別著者なら『流浪の月』

nanakko

元司書で現ライターのnanakkoです。
 
子どものころから本が大好きで、大学では小説創作を専攻。
会社員を経て、国立大学図書館の司書に。
 
小説、お芝居(映画・ドラマ・舞台・アニメなど)、音楽が好き。
プロの技が詰まったエンターテイメントに感動します。
 
このブログでは、私が好きなエンタメ作品について共有できればと思っています!
 
心が動いた瞬間を忘れないよう、文章で記録していきます。

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