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映画『シンシン/SING SING』芝居は演じる人をも救う

映画

囚人と演劇。それはまったく関連のない”かけ離れたもの”のように思える。 だからこそ、あらすじを見て興味を持ったし、心惹かれて映画館に足を運んだ。

いや、本当のことを言えばもうひとつ理由がある。 私は真剣に演劇に取り組んでいた時期があり、それもこの映画に興味を持ったきっかけのひとつだ。

映画のタイトルとなっているシンシンとは、ニューヨークにある「シンシン刑務所」のことだ。

このシンシン刑務所では、1996年から芸術を通じたリハビリテーションプログラム「RTA」が創設されている。ニューヨーク州にある10ヶ所の刑務所でRTAプログラムが行われており、その中には、演劇、音楽、ダンス、創作執筆といったものがある。

2018年のアメリカ司法統計局の調査によれば、全米平均の再犯率が60%を超えるのに対し、RTA参加者は再犯率が3%未満だという。

希望の光となる演劇

映画シンシンでは、演劇プログラムを受講していた囚人たちが主人公だ。

RTAで脚本を書き、演劇チームを引っ張っているのは、主役であり、無実の罪で収監されているディヴァインG。RTAメンバーからも信頼が厚く、一目置かれている。

RTAでは、プロの演出家がワークショップを行うのだが、受講する彼らは本当に活き活きと演劇に取り組んでおり、その姿は塀の外の人たちと何ら変わらない。

映画を見ていると、彼らにとっての演劇プログラムの存在が長い刑務所生活での生きる希望となっていることがわかる。

映画では、演劇プログラム以外の刑務所での暮らしはあまり描かれていないが、端々に彼らの苦悩が伺える。 ワークショップやはたまた囚人同士の会話で、ときおり出てくる家族や子どもの話。 個室のチェックで荒らされる私物。 仮釈放の審問で投げかけられる心ない言葉。

突然の仲間との別れや理不尽な仕打ちに、心の限界を越えてしまっても、結局そのささくれた心を救ってくれるのはRTAとその仲間たちなのだ。

演劇は間違いなく彼らの心の支えとなり、生きる希望となっている。

プロセスが大事

誰かを演じること、その中で感情を表現することは、自分と向き合うことでもある。 感情を知らなければ、演じることは難しい。 自分が過去に感じたことのある感情と向き合い、自分が演じる人物の気持ちを想像しながら創りあげていく。

とはいえ、演じる人物とまったく同じ感情を過去に体験しているかは、重要ではない。 そうでなければ、殺人犯の役は殺人犯しかできないことになってしまう。

例えば、自分の子どもを殺された男が犯人に復讐する物語だったらどうか。 その男の心の奥底にあるのは「憎しみ」である。

10年20年と生きてきて、この「憎らしい」という感情を過去に体験していない人はいないのではないだろうか。 そのときの感情を思い起こせば、復讐する男の感情を想像できる。

映画の中では「プロセスが大事だ」という言葉が何度か演出家から発せられる。 見ているときは、あまりピンと来なかったのだが、もしかすると「自分と向き合う、感情をつくりこんでいく」そのプロセスを指していたのかもしれない。

当たり前のことだが、演劇をするためには人と力を合わせることが必要だ。 そこでは他者とのコミュニケーションがあり、自分を抑える必要も出てくるだろう。

実際、RTAに新たに参加したディヴァイン・アイは、最初は自分を抑えられず気に入らない演出に苛立ち、仲間にも攻撃的な態度をとることもあった。

それでも彼は、徐々に自分の感情をコントロールできるようになっていき、ついには仲間を助けるような働きかけができるようになっていく。

この「プロセスが大事だ」と演出家は言ったような気がしてならない。

自分を諦めるな

助演を務めたディヴァイン・アイことクラレンス・マクリンは、本人役で出演。 他にもRTAメンバーの多くが、本人役で出演している。

特にクラレンス・マクリンは、この映画での演技が評価され、プロの俳優となっている。 17年もの月日を刑務所で過ごした男が、俳優に。人生、本当に何があるかわからない。

人は変われる。 彼は、自分も人生も諦めてはいけないことを体現してくれた。

nanakko

元司書で現ライターのnanakkoです。
 
子どものころから本が大好きで、大学では小説創作を専攻。
会社員を経て、国立大学図書館の司書に。
 
小説、お芝居(映画・ドラマ・舞台・アニメなど)、音楽が好き。
プロの技が詰まったエンターテイメントに感動します。
 
このブログでは、私が好きなエンタメ作品について共有できればと思っています!
 
心が動いた瞬間を忘れないよう、文章で記録していきます。

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